1 調査の目的

 ストレス社会と評される現代、地域社会や職場における心の健康づくり(メンタルヘルス)は、今、大きな関心事となっている。今回の調査では、幡多地域の職業人を対象にし、(1)どの程度精神的な困難(ストレス状況への不適応性)があるか、(2)「相談機関」を利用する予定があるか(ニーズ)、(3)利用予定がない(利用しにくさの)理由は何か、この3点に絞って調査を行い、ニーズ、及び保健所としてハード及びソフト面での課題を明らかにし、今後の事業の効果的な展開を図ることとが目的である。なお、今回の予備調査は、本調査実施のための準備資料収集も目的とする。

 

2 平成8年度調査について

 平成8年度に中村保健所が行った調査「職場のメンタルヘルス調査」(以下、H8調査と呼ぶ)によると、全体(幡多地域の県職員475名対象に行われ、有効回答者数441名)の約半数は仕事や生活に現在満足し(不満は約2割)、「世間話をする機会も多く、仕事仲間同士で楽しむ機会もよく持てている」と、メンタルヘルス上の際立った問題点はないことを報告している。今回の調査では、H8調査で使用された「満足度」という観点のかわりに「精神的に困っているかどうか」の指標と一般的に使用されているGHQ30健康調査票を用い、精神的な健康度を追調査することにした。これに加え、精神的な困難に「どう対処」してきたか、その結果どうなったか、相談機関を利用するかどうか等も調べた。

 

3 方法

 幡多地域の職業を持つ男女216名(男112、女99、不明5名、平均年齢39.1歳、平均勤務年数13.1年、県職員75、病院職員79、民間企業職員62名)を対象に質問紙(調査票)法にて「心の健康づくり調査(予備調査)」[1]を実施した。事業所代表者毎に配布し、各事業所職員への施行及び回収協力依頼を行った。プライバシーに関わる内容のため、無記名式とし、回収の際は封筒に密封するよう教示した。配布から回収は1ヶ月以内に行い、回収率は約80%であった。


4 結果と考察

(1)メンタルヘルス度について

 「最近(5,6年以内)に自分や他人のことで精神的に悩んだり困ったりして辛かったことはどのくらいの頻度でありますか」という質問の回答結果(以下、困難頻度)を図1に示した。年1回以上の精神的困難を経験した者は全体の7割に達し、「常にある」と3割弱いることがわかった。最も精神的に辛かったときの、仕事や日常生活への影響(以下、最困影響度)について問うと、図2のとおり2割強が「全く手につかなかった」り「ほとんど集中できなかった」という否定的影響を受けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 


 図3には、困難頻度毎に、最困難時の影響度の割合比較を図示した。「少しやりづらかった」者の割合は、精神的困難が「ない」を除きほぼ同程度だが、「…集中できなかった」「全く手につかなかった」者の割合は、困難頻度が高いほど高く、「ほとんど影響なかった」者の割合は逆に低くなっている。実際、両指標を5段階に点数化し比較すると有意で強い相関があった(n=206,r=.465, p<.01)。困難が度重って最困難時の精神的ダメージが大きくなるのか、あるいは、最困難時のダメージの影響で困難頻度もあがるなどの可能性も考えられる。因果関係はともかく、結果からは高困難頻度者はダメージが一層大きくなる可能性が示されており、この点に留意したメンタルヘルス対策が必要である。

 

表1 性別、年齢、勤務年数、役職の有無等と各精神健康度指標との相関表

 

性別

年齢

勤務年

役職

困難頻度

最困影響度

楽しい時

GHQ30

性別

1.000

 

 

 

 

 

 

 

年齢

0.045

1.000

 

 

 

 

 

 

勤務年

0.288**

0.670**

1.000

 

 

 

 

 

役職

0.261**

0.338**

0.409**

1.000

 

 

 

 

困難頻度

0.001

-0.124

0.089

-0.012

1.000

 

 

 

最困影響度

-0.055

-0.075

0.070

-0.040

0.465**

1.000

 

 

楽しい時

-0.234**

-0.214**

-0.330**

-0.142*

-0.210**

-0.182**

1.000

 

GHQ30

-0.029

0.035

0.183**

-0.031

0.425**

0.356**

-0.494**

1.000

              注:n=188(欠損値は変数毎に省いて算出した)。*p<.05, **p<.01

      性別は女=0,男=1、役職は無=0,有=1とそれぞれ換算した。

 

 次に、困難頻度、最困影響度、「楽しくおもしろい時間」をどのくらい持ったか(以下、愉快頻度、図4)、GHQ30などのメンタルヘルス各指標と性別や年齢などとの関係を調べるために相関係数を算出した(表1)。性別、年齢、勤務年数、役職の有無などはいずれも困難頻度や最困影響度と有意な関係があるとは言えなかったが、愉快頻度とは強い負の相関が認められた。男性であるほど、そして年齢や勤務年数を重ねるほど、または役職があるほど、楽しくおもしろい時間を過ごす機会が減ることを示している。この愉快頻度は、困難頻度や最困影響度、GHQ30とやはり有意な負の相関が認められる。楽しくおもしろい時を持つ者ほど、精神的困難の頻度や最も辛い時期のダメージが低いことを示しており、GHQ30という一般的な指標もこのことを裏付けている(点数が低いほど健康とされる)。ただし、愉快な機会が多いことが困難頻度やダメージを和らげる効果があるのか、逆に困難頻度やダメージが低いから愉快でいられるのかなど、今回の調査だけではその因果関係を特定することはできない。少なくとも、精神的健康を保つ指標として愉快頻度は有効であり、男性や高年齢・長期勤務者、役職者にとって愉快頻度が下がることは、直接GHQ30や困難頻度、最困影響度との相関がないことが示すように、レッドサインではなくとも、何らかの精神的健康上のイエローサインである可能性を示唆しているだろう。

その他、困難頻度や最困影響度とGHQ30に有意な正相関が認められた。困難頻度が高くダメージが大きいほど、ここ最近[2]の精神的健康状態がよくないことを示している。また、勤務年数が長いほどGHQ30が高い。性別や年齢、役職の有無が関係ないことから、強いて言えば終身雇用制度の崩壊や不況によるリストラなどの現代的な社会不安の影響も推測されうる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(2)精神的困難への対処法について

 回答者が精神的な困難への対処法をどの程度使ってきたか、さらにその結果どうなったか(効果があったか)について調査した。

対処法については、「よくした」〜「したことはない」を3〜0点とそれぞれ点数化し図5に各対処法の使用平均値を示した。「自分で原因を取り除いたり問題を解決しようとした」が最も使用度が高く、「自分ひとりで気晴らしした(飲食、スポーツ、娯楽、趣味、旅行など)」、「ひたすら耐えた」、「誰かとともに気晴らしした(同上)」がほぼ並び、やや下がって「専門家以外の誰かに相談した(相談に乗ってもらった、聴いてもらった)」が続いた。「医療機関を受診して、薬(安定剤、睡眠薬など)を服用した」、「専門家(医師、カウンセラー、セラピストなど)に相談した」はさらに低く、ほとんど使用されていないことがないことがわかった。

続いて、対処法を試してみて実際どうであったか、その結果(効果)を問うた結果を図6に示した。対処法と同様に「とても楽になった」の+2点〜「とても辛くなった」の−2点までそれぞれ点数化して平均値を示した。最も高かったのが「専門家以外の誰かに相談した」で、「誰かとともに気晴らし」、「自分ひとりで気晴らし」が続いた。やや下がって「医療機関を受診」や「自分で原因を取り除いたり問題解決…」、さらに下がって「専門家に相談」となった。「ひたすら耐えた」が最も効果の評価は低く、これのみマイナス値であった。

 これらを総合すると、自分や誰かと一緒の「気晴らし」が使用度も効果も高いと報告されている一方で、「自分で原因を取り除いたり…」や「ひたすら耐えた」は使用度の高さとは逆に結果の評価が低いことが特徴である。これと逆のことが「専門家以外の誰かに相談」であり、使用度がやや下がるのにもかかわらずその効果への評価は最も高かった。また、「医療機関を受診」や「専門家に相談」は使用度・結果の評価ともに低く留まっており、専門家や専門相談機関の利用が一般的でなく、その評価も高くないことが示された。

 さらに詳しく検討するために、欠損値を排除して対処法使用度に関して因子分析を行った(表2、3、図7)。その結果、「誰かと気晴らし」「自分で気晴らし」「自分で原因を…」をグループにする因子1(自助因子)と「医療機関を受診」「専門家に相談」をグループにする因子2(専門家援助因子)が抽出された[3]。つまり、精神的困難への対処法については、大まかに自助か専門家援助かに分けられると言える。ところで、「ひたすら耐える」(図7のS7)や「専門家以外の誰かに相談」(図7のS3)は、自助因子と関連が強いグループの他の変数(s4,s5,s6)と比べ、やや性質が異なることが見てとれる。このことは、使用度の高い「自助」に対して使用度の低い「専門家援助」をいかに事業の中で位置付けてゆくかという点で、対処法の異質性を補完するものとして後述する「メンタルヘルス対策」の手がかりになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 
表2 対処法使用度の相関表

 

医療機関

専門家
相談

専門家以外

相談

誰かと
気晴らし

自分で
気晴らし

自力で
原因を

ひたすら

耐えた

医療機関

1.000

 

 

 

 

 

 

専門家相談

0.701**

1.000

 

 

 

 

 

専門家以外相談

0.191**

0.183*

1.000

 

 

 

 

誰かと気晴らし

0.014

-0.049

0.417**

1.000

 

 

 

自分で気晴らし

-0.012

-0.074

0.269**

0.478**

1.000

 

 

自力で原因を

0.042

-0.024

0.313**

0.347**

0.479**

1.000

 

ひたすら耐えた

0.066

0.039

0.252**

0.181*

0.297**

0.423**

1.000

N=159, *p<.05, **p<.01

 

表3 対処法使用度の因子負荷量*

変数名

対処法

因子1

因子2

共通性

S1

医療機関

-0.064

-0.763

0.586

S2

専門家相談

0.021

-0.919

0.846

S3

専門家以外相談

-0.512

-0.211

0.307

S4

誰かと気晴らし

-0.612

0.027

0.376

S5

自分で気晴らし

-0.687

0.080

0.478

S6

自力で原因を

-0.679

0.007

0.461

S7

ひたすら耐えた

-0.464

-0.054

0.218

 

負荷量の二乗和

1.789

1.482

 

 

寄与率

25.562

21.175

 

 

累積寄与率

25.562

46.737

 

 *バリマックス法により回転

 

図7 第 1 因子と第 2 因子の組合せの因子負荷量の配置図


 続いて、対処法の結果(効果)について分析を進めてみる。図6のとおり、自己報告にもとづいた結果では、「専門家外相談」や「自分で気晴らし」「誰かと気晴らし」などの効果が高く、「ひたすら耐える」は低く、むしろ逆効果であることがうかがえた。だが、事実を反映しているのだろうか。回答者がそう思い込んでいる危険はないだろうか。

 そこで、先述の精神的健康度の各指標を用いて、別の角度から対処法の効果について検討してみる。そもそも精神的困難頻度が低い者は対処の必要性が低いとも考えられる。悩み困る心配がなければ対処法を考える心配もあまりいらないからである。普段どおり日常生活を楽しむという意味で「気晴らし」などをして、よい結果が得られたと自然に感じているだけなのかもしれない。反対に、困難頻度が高い者は、常に対処法に気を配る必要があるだろうと考えられる。困ったり苦痛を避けるため、あるいはそのダメージを最小限にするために、そのつど効果的な対処法を求めていると考えられるからである。したがって、駆使された対処法のうち、どの方法が効果的であるかを、困難頻度の高い者の回答から分析することにした。

 困難頻度の高い「常にある」と答えた者のうちGHQ30の得点が8点以上の群をHi、7点以下の群をLoとして[4]、2群間で各対処法及び対処結果について平均値の差の検定(t検定)を行った(表4)。各対処法で有意差があったのは「誰かと気晴らし」であり、「専門家以外の誰かに相談」と「ひたすら耐えた」の平均値の差にも有意な傾向がみられた。つまり、GHQ30の低い(健康な)者の方(Lo群)が高い者ら(Hi群)より「誰かとともに気晴らし」する機会が多いことがわかった。また、Lo群が「専門家以外の誰かに相談」する頻度が高い傾向がみられた。逆にHi群に「ひたすら耐える」頻度が高い傾向があった。次に各対処結果の平均値の差をみると、Lo群はHi群に比べ有意に「専門家以外へ相談」や「自分で気晴らし」して楽になったと報告しており、また「誰かと気晴らし」して楽になったと言う傾向が認められた。

 精神的困難が高頻度であるにもかかわらず、調査時点の数週間の心身の健康状態を問うGHQ30の得点で健康なレベルでいられるLo群は、困難への対処法がうまくゆき心の健康を維持することに成功している人々であると理解できる。彼らは「誰かとともに気晴らし」する機会をよくつくり、「専門家以外への誰かへ相談」する機会を心がけ、「ひたすら耐える」ことをしないようにしている。また、「専門家以外の誰かへ相談」したり「自分で気晴らし」することを中心に、「誰かと気晴らし」することも含めて、それらの効果を高く評価している。メンタルヘルス保持増進の指針として受け入れることができよう。このことは、H8調査[5]において報告された、「世間話」や「仕事仲間同士で楽しむ」「不安やストレスを相談できる」機会を多く持つ者の「満足度」が高いという結果と矛盾しない。H8調査の結果が今回の調査結果によっても追認されたと言える。

 


 表4 高困難頻度者におけるGHQ30高低2群間の各対処法・結果平均値比較

 

 

平均値

Hi群

分散

データ数

平均値

Lo群

分散

データ数

各対処法

医療機関

1.17

0.50

0.97

32

0.24

0.55

29

 

専門家相談

0.89

0.25

0.52

32

0.10

0.31

29

 

専門家以外相談

-1.97+

1.31

1.06

32

1.83

1.11

30

 

誰かと気晴らし

-2.88*

1.39

1.12

33

2.10

0.78

30

 

自分で気晴らし

-0.73

1.88

1.23

33

2.06

0.81

33

 

自力で原因を

-1.58

2.00

1.10

32

2.34

0.43

32

 

ひたすら耐えた

1.70+

2.22

0.95

32

1.79

0.96

29

各対処結果

医療機関

-0.75

0.50

0.50

10

0.75

0.25

4

 

専門家相談

-

-

-

-

-

-

-

 

専門家以外相談

-2.66*

0.76

0.59

21

1.30

0.31

23

 

誰かと気晴らし

-1.86+

0.70

0.37

27

1.04

0.50

27

 

自分で気晴らし

-2.58*

0.67

0.23

27

1.04

0.33

28

 

自力で原因を

-0.63

0.41

0.82

29

0.57

0.94

30

 

ひたすら耐えた

-0.21

-0.28

0.85

29

-0.22

1.18

23

              ‡ データ数が少ないため検定不能。                                     +p<.10, *p<.05


(3)専門相談機関の利用について

 今後精神的に困ったら専門相談機関(医療機関、公的・民間相談機関)に相談に行ってみようと思うか、という質問には8割弱(168名)が「思わない」と答え、行くとしたら約半数が「近くの精神科」を選び、保健所は1割強(8名)に留まった(図8)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表5 専門相談機関を利用しない理由(複数回答)

理由

人数

わざわざ相談に行くほどのことでもないから

105

必要ないから(自分で何とかできるから)

79

お金を払ってまで行く気がしないから

30

どこに行けばよいか情報が不足しているから

23

病人(精神病)扱いされそうで抵抗があるから

18

職員(スタッフ)の技術や力量が信頼できないから

18

時間がないから

17

周囲の目が気になるから

16

相談の秘密がもれるのではないかと不安だから

16

希望する相談機関がないから

15

相談に行くことは、はずかしいことだから

5

以前、相談に行ったが期待はずれだったから

1

 

 

 

 

 表5には、専門相談機関を利用しない理由を示した。「わざわざ相談に行くほどのことでもない」「必要ない(自分で何とかできるから)」と答える者が多く、「お金を払ってまで行く気がしない」が続くことから、専門相談機関の敷居の高さが現れている。専門相談機関は気軽に行けるところではなくて、よほどの状態になってから仕方なく行くところと理解されているのかもしれない。先述の対処法でも、専門家援助に対する使用度は低かった。行き先として、できれば行きたくないと思いながら、真っ先に思い浮かぶのが「近くの精神科」(=精神病院)(図8)なのではないかとも考えられる。

 次に、表6、図9から表16、図19までは、利用したいと思える必要条件を各事項について全員に聞いた結果を示した。地域的に利用者が求める「専門家相談機関」をできるだけ詳細に把握するため、利用するつもりの者とそうでない者との比較も試みた。順にみてゆくと、「スタッフに関すること」では「熱心」「経験豊富」が特に多く、「スタッフの態度」は「的確な助言をする」「じっくり話を聴く」が多かった。「相談所の種類」では「特にない」が最も多く、既存の病院や診療所、公的機関それぞれへの期待度はあまり高くないことがうかがえる。「専門職種」についても「特にない」が多いが「カウンセラー・臨床心理士」への期待も高かった。「相談場所」については「特にない」も多いが「居住地の身近にある」ことが最も多く、アクセスのしやすさが中でも重視されているようである。「相談の時間帯」や「相談の曜日」については特に期待はないようである。ただ、「相談時間」については、「特にない」も多いものの「10〜30分未満」が最も多く、約半数が1時間以内を希望している。「相談料」についても「特にない」が多いが、「1000円未満」「2000円未満」が多く、既存の相談機関への実際の評価額と考えられるが、民間相談機関では5千円前後が相場あることからみても、地域的な価値観の違いか相談機関への期待の低さを表しているとも言える。「相談方法」は「面接相談」が最も多く、「その他、内容」については「特にない」が多いが「心理療法」や「悩み事相談」など、専門的な心理相談を期待する向きもうかがえた。

 

 

 

表6 相談機関の利用条件:スタッフに関すること

スタッフに関すること

相談しようと思う(以下、する)

相談しようと思わない(以下、しない)

1 有資格

 

7

2 経験豊富

19

49

3 評判

6

16

4 熱心

15

54

5 特にない

1

27

6 その他

 

11

 


 

図9 相談機関の利用条件:スタッフに関すること

 

 

 

 

 

 

 

 

※以下、図中の各理由項目ラベルは省略して番号で表示する。

 

 

表7・図10 相談機関の利用条件:スタッフの態度に関すること

 

する

しない

1 的確な助言をしてくれる

21

54

2 じっくり話を聴いてくれる

18

64

3 薬を処方してくれる

2

 

4 問題を解決してくれる

3

14

5 特にない

 

20

6 その他

 

1

共感能力や理解する能力

 

1

人格

 

1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


表8・図11 相談機関の利用条件:相談所の種類

 

する

しない

1 病院

17

18

2         診療所

(クリニック)

13

23

3 公的機関

7

21

4 特にない

9

95

5 その他

 

3

 

 


 

 

 

 

 

 

表9・図12 相談機関の利用条件:専門家職種について

 

する

しない

1 精神科医

17

22

2 内科(心療内科)医

8

16

3 カウンセラー・臨床心理士

13

50

4 保健婦

 

 

5 その他相談員

2

5

6 特にない

4

59

7 その他

 

2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


表10・図13 相談機関の利用条件:相談の場所に関すること

 

する

しない

1 居住地の身近にある

27

57

2 ちょっと郊外にある

8

30

3 県内の離れたところ

3

6

4 県外で離れたところ

 

1

5 特にない

8

66

6 その他

 

1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


表11・図14 相談機関の利用条件:相談の時間帯

 

する

しない

1 午前中  

5

10

2 昼休み

2

4

3 午後

8

19

4 夕方5時以降

16

31

5 特にない

16

99

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


表12・図15 相談機関の利用条件:相談する曜日

 

する

しない

1 平日

8

28

2 土曜日

14

16

3 日曜日(祝祭日)

3

11

4 特にない

22

103

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


表13・図16 相談機関の利用条件:相談時間に関すること

 

する

しない

1 10分未満

3

7

2 10〜30分未満

20

44

3 30〜60分未満

13

32

4 60〜90分未満

2

6

5 特にない

8

66

7 その他

 

5

 

 

 

 

 

 

 

 

表14・図17 相談機関の利用条件:相談料に関すること

 

する

しない

1 1000円未満

13

45

2 2000円未満

16

30

3 3000未満

7

12

4 5000円未満

1

7

5 特にない

10

51

6 その他

 

14

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表15・図18 相談機関の利用条件:相談方法

 

1

2

1 面接相談

36

77

2 訪問相談

4

7

3 電話相談

3

14

4 特にない

4

58

5 その他

 

1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


表16・図19 相談機関の利用条件:その他、内容

 

する

しない

1 薬物治療   

8

14

2 心理療法

13

32

3 悩み事相談   

12

36

4 自己啓発

3

2

5 教室や講座

2

9

6 特にない

6

54

7 その他

1

5

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



(4)その他の分析結果について

 今回の調査では、大きく3種類の所属機関職員について調査を行ったので、所属種類毎の精神的健康度の各指標(困難頻度、最困時影響度、愉快頻度、GHQ30)の比較を行った。分布の偏りの大きい愉快頻度を除いて、分散分析を行った(表18、19、20)。その結果、最困時影響度のみ有意差が認められた。県職員は有意に病院職員や民間企業職員に比べ、精神的な最困難時のダメージが大きいことがわかった。有意差はなかったものの、他の指標についてもすべて、県職員、病院職員、民間企業職員の順で各指標の平均値が大きく、これが意味するところについて今後厳密な調査を行うことが必要である。

 さらに愉快頻度について、「週に1,2回」以上「楽しくおもしろい時間」を持った者とそれ以下の2群について、県職員とそれ以外の職員の比較をした(表17)。この結果、他の職員に比べ有意に県職員が愉快頻度が少ないことがわかった(χ2=22.1,p<.001)。このことは、精神的に最も困った時のダメージが他より大きいことと合わせ、メンタルヘルス対策上の課題を示唆している。

 

 

表17 愉快頻度の比較

 

その他

県職員

週1回以下

26

37

63

週1,2回程度以上

113

38

151

139

75

214

 

 

 


表17 各所属のGHQ30

グループ

標本数

合計

平均

分散

県職員

67

495

7.39

50.9

病院職員

68

417

6.13

36.3

民間企業職員

55

317

5.76

40.3

(分散分析表)

変動要因

変動

自由度

分散

観測された分散比

P-値

F 境界値

グループ間

91.7

2

45.8

1.076

0.343

3.044

グループ内

7965.6

187

42.6

 

 

 

合計

8057.3

189

 

 

 

 

 

表18 各所属の困難頻度値

グループ

標本数

合計

平均

分散

県職員

75

250

3.33

1.71

病院職員

76

249

3.28

1.72

民間企業職員

61

190

3.11

2.14

(分散分析表)

変動要因

変動

自由度

分散

観測された分散比

P-値

F 境界値

グループ間

1.69

2

0.84

0.46

0.63

3.04

グループ内

384.06

209

1.84

 

 

 

合計

385.75

211

 

 

 

 

 

表19 各所属の最困時影響度値

グループ

標本数

合計

平均

分散

県職員

74

231

3.12

0.68

病院職員

77

221

2.87

0.85

民間企業職員

58

160

2.76

0.78

(分散分析表)

変動要因

変動

自由度

分散

観測された分散比

P-値

F 境界値

グループ間

4.70

2

2.35

3.04

0.05

3.04

グループ内

159.23

206

0.77

 

 

 

合計

163.92

208

 

 

 

 

 


5 まとめと今後のメンタルヘルス対策についての一提言

 幡多地域の職業を持つ男女に対して行った今回の調査では、H8調査で示されたように半数が現状に「満足」しメンタルヘルス上の際立った問題もないとする報告とは異なり、7割が精神的な困難を年1回以上体験し、やりづらさを感じつつさまざまな対処法を試みている実像を明らかにした。この違いは、注目点が「満足度」か「困難度」かで生じたものと考えられる。今回の調査でも、愉快頻度によると「週3,4回以上楽しくおもしろい」ときを持った者は反対に7割に達するのである(図4)。毎日が「満足」で「楽しい」人が多ければ、メンタルヘルス上好ましいことは明らかであるが、それより大切なのは「精神的な困難」を抱えた者が困難を克服し生活や仕事に「満足し」「楽しめる」ようになることである。したがって、少数でも困った者をいかに援助するかがメンタルヘルス対策であり、今回のように、過半数の者が困難を抱えたことがある場合はなおさらである。

 「では、どうするか」という精神的困難への対処法についても、さらに突っ込んで今回は調査分析した。困難頻度の高い者のうち、心身の健康を維持していられる者は、困難に対して「ひたすら耐える」ことはせず、「誰かと気晴らし」したり「専門家以外の誰かに」できるだけ相談するようにしていた。だが、そうかと言って、「困難を克服するためには我慢せず気晴らしや身近な人に相談をするようにしましょう」の呼びかけだけではメンタルヘルス対策として弱い。確かにそれができたら深刻な事態に陥らずに済むかもしれないのだが、精神的困難を抱える者はそれができないからこそ困難に苦悩し、悶々と事態を悪化させ風邪をこじらせるように問題を深刻化しているのかもしれない。そうであれば「病は気から」式の援助は何の役にも立たない(かえって、さらに事態を悪化させかねない)。ここにいたって、専門的な援助の出番が来るはずであった。

 ところが、今回の結果から、専門相談機関への期待は低いことが残念ながら明らかになった。困難への対処法でも専門家援助の使用度は極端に低い。相談機関を利用しようと思わない者が8割近くに達し、必要ない、間に合っているという結果であった。利用されないので役にも立てず知られず期待もされない、という悪循環に陥っているようである。

そこで、専門機関の信頼回復のためには、スタッフの技術向上がまず第一である。期待されるスタッフ像は「経験豊富」かつ「熱心」であることだ。「じっくり聴いて」「的確な助言」ができる「臨床心理士・カウンセラー」などの相談援助のプロが行う「心理療法・悩み事相談面接」が求められている。

次に、専門相談機関のPRも大切なことであろう。ただ漠然と「相談に乗ります」ではこれまでと何ら変わらず、声は利用者に届かない。専門家として何を援助できるのか、利用するメリットは何か、具体的に責任をもって示し、利用を促進する必要がある。

ところで、メンタルヘルス対策を考える上で役に立つ情報がある。先述の因子分析(図7)で抽出された2つの因子(自助因子と専門家援助因子)である。自助因子と関係が強い対処法のうち、「専門家以外へ相談」と「ひたすら耐える」は他とやや性質が異なっていた。前者は「成功した」対処法として先述したとおりであり、後者は「失敗した」対処法であった。さらに、「専門家以外へ相談」対処法使用度だけは、専門家援助因子と関係が強い「医療機関を受診」と「専門家に相談」両方を含めて全対処法に有意な相関があった(表2)。この性質は、他の自助因子グループの対処法には認められない。つまり、「専門家以外へ相談」は、強いて言えば専門家援助への「橋渡し的存在」として特殊な方法と言えるのである。また、「失敗した」対処法である「ひたすら耐える」も、自助因子グループからやや離れた対処法として結果的に専門家援助の前段階ととらえることができる。これらの点に、メンタルヘルス対策の手がかりがある。

 効果的な対処法であることがわかった「誰かと気晴らし」は、文字通り「自助」的に行われることであって、専門的なメンタルヘルス対策とは程遠い。専門家が積極的に「誰かと気晴らし」させようというのはむしろ過干渉でおかしなことでもある。だが、上手に「自分で気晴らし」することを支援することは可能である。事実、その使用頻度に有意差はなかったにもかかわらず、効果があることがわかった(表4)点からも、精神的な健康を保持できる者は頻回でなく「必要に応じて上手に効果的に」「自分で気晴らし」ができているのだと考えられる。この点をさらに調査研究することで、ある特定の「ストレス対処スキル」が明らかにされるかもしれない。専門家は、この点から間接的に援助することで全体のメンタルヘルス向上に役立てるかもしれない。

 また、「橋渡し的な存在」として特徴づけられる「専門家以外への相談」に対しても、専門家が間接的支援を行うことが可能である。いわゆる一般にメンタルヘルスの「自助グループ活動支援」や「ピア・カウンセリング支援」と呼ばれるものが相当する。自助性(自主性と自立性)を尊重し活動を支援することは専門的な技術を要することである。その結果、「専門家以外への相談」が「橋渡し」になり、専門家による直接的な援助への敷居が低くなり利用が増えることも考えられる。これも重要なメンタルヘルス対策である。

 さらに、「ひたすら耐える」という対処法については、その自助性を尊重しこれまでの苦労を労いつつ、万策尽きた精神的な困難者に対しては相談援助の機会を提供しやすい工夫と配慮が不可欠である。相談援助システムのノウ・ハウ構築が望まれる。

 今回の調査を踏まえたメンタルヘルス対策の提言を最後に記す。

 

提言1:相談援助スタッフの専門技術の向上

提言2:相談援助システムの構築とPR

提言3:ストレス対処スキルに関する調査研究

提言4:メンタルヘルス自助活動の専門的支援

 

 

 

追記:[6]



[1] 添付資料Aを参照のこと。

[2] GHQ30では、「この数週間」と教示し、最近の状態を自己報告させている。

[3] 同様に対処結果(効果)についても因子分析を行うことができるが、欠損値が多いため行わなかった。

[4] GHQ30では7点以下が健康と考えられている。

[5] 平成8年度実施の「職場のメンタルヘルス調査」

[6] 今回の調査を行うにあたって協力いただいた各事業所職員の皆様を始めとして、幡多保健所長・両次長、障害保健課長並びに各スタッフ、さらに項目作成から調査実施、集計、分析まで御助力いただいた渡川病院の田中修一Dr、佐田CP、皆様大変お世話になりました、この場を借りて御礼申し上げます。